大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和31年(あ)2466号 判決 1957年3月28日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人らの負担とする。

理由

被告人三名の弁護人浦田関太郎の上告趣意第一は、違憲をいうが、その実質は、単なる訴訟法違反の主張であり、同第二は、量刑の非難で、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、奄美群島は、昭和二〇年一一月二六日附米国海軍軍政府布告第一号によって、昭和二一年二月二日から日本裁判所の司法権を停止され、次で、昭和二七年条約五号日本国との平和条約三条の規定により、同年四月二八日からその領域及び住民に対する日本国の行政、立法及び司法上の権力を行使する権利は停止されていたのであるが、昭和二八年条約三三号奄美群島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定によって、アメリカ合衆国は、昭和二八年一二月二五日以降右群島の領域及び住民に対する行政、立法及び司法上の権力を行使する権利を放棄すると共に、日本国は右のすべての権力を行使するための権能及び責任を引受けることになったのである。すなわち、前記軍令が効力を生じた昭和二一年二月二日から右協定発効の前日である同二八年一二月二四日までの間わが国は、右群島に対する領土権を喪失したものではなく、また、同群島に在住した日本人もわが国の国籍を喪失したものでもなく依然これを保有していたものであるから、わが刑法は、右群島において罪を犯した日本人に対してもその効力を及ぼしたのであったが、右期間中はこれが公訴権並びに裁判権の行使をすることを停止されていたに過ぎないのであって、右協定により昭和二八年一二月二五日以降その障害が除去され、わが国は、完全にその公訴権および裁判権を行使する権能を回復したのである。されば、わが日本国の国籍を有する被告人等に対する本件公訴にかかる本件犯行は奄美群島がわが国に復帰する前である昭和二八年八月から同年一二月二四日までの間名瀬市所在大島中央病院でなされたというのであるから、わが国の公訴権、裁判権の停止中の犯罪ではあるが、該犯罪に対するわが刑法の効力は何ら害されるものでなく、しかも、本件公訴は、わが国が公訴権および裁判権を回復した後である昭和二九年一二月三一日であること記録上明白であるから、第一審として鹿児島地方裁判所名瀬支部、第二審として福岡高等裁判所宮崎支部が審判をしたのは正当であって、所論の訴訟法違反は認められない。

被告人田畑憲一の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお、浦田弁護人の上告趣意について説明したとおり、本件被告人の所為に対しては、わが国が公訴権および裁判権を行使することができるものであって、第一、二審は被告人の所為を刑法三条により処断したものではない。

被告人保村文彦、同福田一夫の上告趣意一は、違憲をいうが、その実質は、単なる訴訟法違反の主張であり、同四は、単なる法令違反の主張であって、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、浦田弁護人の上告趣意について説明したとおり、本件についてわが国の裁判所が裁判権を有するものであって、原一、二審が所論のように刑法三条を適用して裁判権があるものとして裁判したものとは認められない。

同二、違憲をいうが、その実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同五は、事実誤認の主張であって、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、この点に対する原判決の説示は正当として是認することができ、本件被告人等の所為は、所論のごとき指定内の経費の流用であり、若しくは、事後承認可能な費目の経費を流用したものとは認められない。

同三の1は、当裁判所の判例違反をいうが、独自の見解であって、その主張自体刑訴四〇五条二号に当るものとは解することができない。同三の2および3は、判例違反をいうが、その実質は、原判決の判示に副わない事項を前提とする法令違反の主張に帰するばかりでなく、所論引用の各判例は、本件に適切でないから、刑訴四〇五条三号に当らない。

よって、刑訴四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例